山田詠美氏の作品を読んだのは初めてだったんだけどすごく面白かった。
友達に、「今これ読んでるんだよ〜」って言ったら、彼も友達がオススメしてきて読んだらしい。
結構みんな読んでるんだなぁと実感。
なんといってもインパクトのあるタイトル。
全部で9つの物語が展開されていく短編集。
形式的には池永陽の『コンビニ・ララバイ』に近いのかな。
ちなみに以前書いた『コンビニ・ララバイ』レビューはこちら。
全ての物語は同じ舞台なんだけれども一つ一つがしっかりしている。
毎回キーになる登場人物が出てきて、それを通じて何かが起こるってかんじ。
主人公の時田秀美君は、タイトルの通り勉強ができない高校生。
女にもてるし、年上の彼女もいるけれど、なぜか高校がつまらない。
彼は、名前ばっかな団体行動だとか純情キャラで通そうとしているもてている女子を馬鹿馬鹿しく感じてしまう。
そんな彼が周りのクラスメイトや先生、彼女だとか家族から様々なことを感じ取っていく。
そのやりとりが読んでいて非常に考えさせられるもので、一つの物語の中で自分の考えが生まれたり、消されたりしていく。
扱われているテーマは、死だったり、人間性だったり、アイデンティティだったり。
本来難しい分野なんだけれども、この話の中では自然と扱われている。
つまり、読んでいてすごくタメになる。
しかもはっきりと答えが書かれているわけではなくて、登場人物たちの発言・行動はあくまで考える上でのヒント。
だから、それを元に自分の考えを膨らます読み方も面白いと思う。
なんといっても、秀美君視線で進められていく物語が読んでいて分かりやすい。
彼が焦ったり、落ち込んだりしている様子がすぐ浮かんでくる。
ただ、最後の『番外編・眠れる分度器』だけは別の視点が介入している。
これだけ秀美が小学生の時の物語で、母親のキャラがさらに強く描かれているのが面白い。
一つ一つ読んでいくうちに登場人物の個性がどんどんハッキリしていって、あたかも自分が秀美君の友人のような感覚になれた。
とにかくオススメです。
「勉強ができないと偉い人になれないのか?」というずっと討論されているテーマへの架け橋でもある気がする。
それに対して自分の意見は、確かに勉強できることは必要だと思う。
でも、勉強だけしかできないのでは意味がないよね。
勉強した上で、それをどう自分に活かすのかという発想力・行動力を養う事が一番大切なんじゃないかな。
それらは学校の勉強だけじゃ手に入れられないものだったりするし。
結局人生ってのは勉強なのかもね。
